たぬき暮らし

たぬき顔の嫁と子供と暮らしているので。

君と2人だけの世界「オンノジ」

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ゆとりだけにゆとりある生活を送りたい、キスケです。


今回は、私が一番好きな漫画である、施川ユウキの「オンノジ」の魅力を余すことなくお伝えしたい。

「オンノジ」とは?

施川ユウキが著者の漫画で、2013年に発行された。全1巻。

ある日突然、世界から人がいなくなり、ひとりきりになった少女・ミヤコ。
少し奇妙な無人の街で過ごすうち、”何か”の存在に気付いたミヤコはそれをオンノジと名付けて――。
笑ったり、驚いたり、そして泣いたり。
非日常世界で暮らす少女とオンノジの日常4コマ


世界から人が消える。こういう設定はSF作品ではありがちだが、この漫画はSF(空想科学)ではないと思う。
設定こそ終末系SFだが、描かれるのは、あくまでもそんな世界での「日常」である。


オンノジの世界観

世界から自分以外の生物が消える

ある日突然街から人がいなくなった
理由はわからない

漫画の1ページ目の1コマ目に書かれている台詞である。


主人公は、小学校高学年くらいの女の子で、ミヤコという。
彼女はそれまでの一切の記憶をなくしている。

要素の約7割を占めるギャグ要素、それにより引き立つ約3割のシリアス要素

ミヤコは、誰もいなくなった世界でも絶望せず、基本的には楽観的に過ごすように見えるが、それが時折見せる彼女の寂しさや悲しみを際立たせる。


例えば、彼女がだまし絵展に出かけたシーン。

だまし絵展かー 人がいないからゆっくり見れそうだし、行ってみよう
チケットが無くても余裕だ よーしダマされるぞー
絵が無い! ダマだれた!!

書のコーナーか 読めないけど達筆だなー
!? 下手な字!! またダマされた!!

私は今 奇妙な世界で暮らしている
何だか まるで 見方のわからないだまし絵の中にいるみたいだ

散々ダマされた帰り道、こんな具合のオチを付ける。


緩急というべきか、ギャップというべきか、アメとムチというべきか…
うまい表現が見つからないが、このギャグとシリアスの落差に何度も唸らされる。


「オンノジ」の存在

世界に自分1人だけ、そんなの寂しくないわけがない。ミヤコも同じだ。


彼女は、人がいなくなった街をゴーストタウンと呼ぶのに抵抗があると、「御ーストタウン」とありがたさをプラスした呼び方を提唱する。
それ以降、彼女は「御」という字にハマる。

一番御の字を付けるべき言葉はなんだろう?
御フ〇ック! 御シット! 御アスホ〇ル!



またあくる日、ミヤコは街で怪しい影を見つけ、自分以外にも生命体がいることに気付く。
若干の恐怖を感じながらも、「御の字」にハマっている彼女はこう考えた。

わからないけど きっとありがたいものだろう。
わたしはそれを「オンノジ」と呼ぶことにした。



その後、オンノジの正体は、元男子中学生のフラミンゴであることが判明する。
なぜフラミンゴ!?という感じだが、世界に2人(1人と1羽)だけしかいないので、2人は自然と一緒に行動するようになる。

ここから始まる「2人だけの世界」がとても魅力的だ。

2人だけの世界

誰もいない世界で、ミヤコとオンノジが織り成す物語は、子どもっぽくて、遠慮がなくて、読んでいて少し恥ずかしく、微笑ましい気持ちにさせる。


他の漫画や小説を読んでそんなことを思ったことは一度もないのに、この漫画に限っては、読んでいると2人の暮らしをのぞき見しているような後ろめたさも感じる。


ミヤコはいつもオンノジに無茶ぶりして困らせ、オンノジはそんなミヤコにツッコミを入れながらも優しく見守る。
2人は原付に2人乗りして温泉旅行に行ったり、2人でバンドを組んだり、挙句は結婚する。


読んでいると、「この物語はどこに向かうのだろうか?」という感情が芽生えてくる。


ミヤコと結婚した後、オンノジは思った。

結婚と言っても子供とフラミンゴだ ただのごっこにしかならない
でも僕達二人の関係性を ムリヤリにでも変えていくことは
永久に変わるつもりのなくなったこの世界で
未来を思って生きられる 唯一の方法なのかもしれない


「変わらない世界」でも、時間は進む

日常系の漫画だが、サザエさんのように日常が延々と続くわけではない。
止まったままの世界でも、時間はゆっくりと、しかし確実に進んで行く。


そもそもノーフューチャーな設定だが、終盤で物語の閉塞感は一気に加速する。
「死亡フラグ」とまでは言わないが、ミヤコとオンノジの関係が終わってしまうことを示唆するような描写が増え、読んでいて不安になる。


この物語は、ミヤコが「世界は自分たちの手で作り上げていくものだ」と気付いたところで終了する。
人のいなくなった世界でも、未来は残っている。彼らは、どんな未来・世界を作っていくのだろうか。

あなたにとっての御の字は?

YUKIの「2人だけの世界」という名曲がある。サビの最後の歌詞ではこう歌われている。

2人だけの世界 誰にも触らせない

ミヤコとオンノジの世界は、どうしたって誰も触ることができない。


今私たちが住む世界はどうだろう。人で溢れ、他者からの干渉を受けずに生きていくことは非常に難しい。
しかし、そんな世にあっても、家庭、友人関係、職場など、誰しもいくつもの「世界≒コミュニティ」に属している。


その中に一つでも、誰にも触らせたくない世界を持っていたいと思う。


作者の施川ユウキは、あとがきで以下のように言っている。

世界の在り方はころころと変わる。人によって、あるいはその日の気分によって。良くも悪くも、どんな世界になっても、それは同じであると思いたい。

ミヤコにとっての「オンノジ」は夫というだけではなく、幸せの象徴というか、お守りみたいな存在なのだと思う。
私にとっての「御の字」は何だろうか。